四色の声が、重なる、こだまする。ひらひら、ゆらゆら、夢の中。
無邪気にたゆたう蝶(マレウレウ)のウポポに誘われて。
マレウレウは、素敵なミーハー精神を持った女性4人の集まりである。とにかく“かっこいい音楽”に目がない。どこの国のものであろうと、どんなジャンルであろうと、往年のものだろうと最新のものだろうと、“かっこいい音楽”に境界線などない。彼女たちはそれをよく知っている。そして、4人はいつしか“一番かっこいいと思う音楽”に辿り着いた。アイヌ民謡――自らのルーツ・ミュージックである。
マレウレウが歌うのは、アイヌの伝統的なウポポ(歌)。今となっては、口伝で歌を教えてくれる年長者も少ないため、頼みの綱は保存音源だ。世のDJがレコード店で必死にレア音源を探し当てるように、彼女たちは北海道の資料館でアイヌ民謡を必死にディグする。先人たちのウポポのかっこよさに「とうてい敵わない」と打ちひしがれながらも、4人で研究と練習を重ね、ひとつひとつ自身ならではの表現へと昇華させてきた。
2010年に、初作「MAREWREW」を発表してからのマレウレウは“攻め”の連続だった。「マレウレウ祭り〜目指せ100万人のウポポ大合唱!〜」なる祭典を主催し、UA、SPECIAL OTHERS、オオルタイチ、キセル、サカキ・マンゴーといった敬愛するミュージシャンと競演。異畑のツワモノたちを相手に、自身のスタイルを崩さず、“声”のみで真っ向から勝負する様は、まさに4人が信じる“一番かっこいいと思う音楽”のあり方を見せ付けているようだった。
観客と共にウコウク(輪唱)をするのも魅力的な挑戦だった。彼女たちが素晴らしいのは、ウポポを歌う悦びを皆とシェアしたいと思ってくれていることである。「ウコウクは聞いているだけでも気持ちいいけど、自分で歌ったらもっともっと気持ちいいんだよ」――そのとおり。大きな口を開けて、覚えたてのアイヌ語で一所懸命に歌ってみたら、なんて気持ちのいいこと。歌えば歌うほどクセになるウコウク・マジック! 目指す“100万人のウポポ大合唱”もきっと夢じゃない。
そして2012年、遂にファースト・フル・アルバムの登場である。「もっといて、ひっそりね」――このタイトルは、古来よりアイヌに伝わる、かくれんぼのときに使う合言葉で……などと、勝手な想像をしてしまいたくなる謎に満ちた言葉だが、実は単なる空耳。アイヌ語の歌詞をそのように空耳したことから冗談でつけたそうだが、冗談を冗談で終わらせないのがマレウレウ流。それでも、「輪唱していると歌が重なり合って、まったく別の歌が聴こえてきたりする。“空耳”をちゃんと持っているとウポポがもっと楽しめる」なんて聞くと、納得。目を閉じて耳をすませば、なるほど、いろんな歌が聞こえてくる。
4人の歌は、言葉として語りかけてくる以前に、音であり、リズムであり、グルーヴである。それらに身を任すとき、体中をらせん状に声で包まれたような、なんともあたたかい安堵感に満ちあふれる。そしてときには、生き物のように押し寄せる声の波に、どこか遠く宇宙の果てまで連れ去られそうな怖さも感じる。
マレウレウは、人間の声がいかに神秘的なものかを教えてくれた。プリミティブであるからこそ広がるイマジネーション。「もっといて、ひっそりね」そこには想像を超えた、めくるめく想像の世界が待っている。
文:岡部徳枝
MAREWREW / もっといて、ひっそりね。(CD) / UBCA-1028
- 舟漕ぎ遊び
- kapiw upopo
- emus kane
- rera suy
- herekan ho
- 芦別の家
- uekap
- ciperikip par yan
- iqu?
- クジラの頭から
- humpe yan na
- pon hekaci heciri (etukuma kara)
- kane ren ren
- 鳥の聞きなし
- saranpe
- mukkur
- pon repun kamuy
- 馬追いの歌
- yaykatekara
- cipo sanke upopo
品番:UBCA-1028