OKIと大城美佐子は、この企画が持ち上がるずっと前から、お互いの存在を知っていた。十数年前、偶然一緒になった関西のとあるイベント。そこで観た互いのステージの衝撃を、「シルキーな高音ヴォイスにぶったまげた」とOKIが語れば、「なんてかっこいいんだろうって驚いた」と美佐子先生が照れ笑う。十年越しの再会、そして共演――互いの音楽に惹かれ合っていた2人に、それを断る理由などなかった。
制作期間は、2011年秋から約4ヶ月。沖縄のスタジオで、OKIプロデュースのもと大城美佐子の唄三線、一番弟子・堀内加奈子による島太鼓などが録音され、残りの作業はOKIが北海道の自宅スタジオで行った。沖縄の地で、初めて自身の唄三線にトンコリの音が重なるのを聞いたとき、美佐子先生は「素敵ね」と目を細めた。沖縄民謡では、筝(こと)を使用することがあるが、どこかトンコリに似た響きがあるかもしれない。筝もトンコリも、悠久の時を思わせるような幻想的な音の広がりをもたらす。
しかし、当初OKIは、「唄と三線がラブラブすぎて、トンコリの入る隙がない」と悩んでいた。沖縄の唄者はほとんどの場合、三線を弾きながら歌う。唄と三線は一心同体のようなもので、切り離すことは難しい。さらに、「聞けば聞くほど微妙な音が出てくる複雑な沖縄音階」も壁だった。それに対して音階の少ないトンコリがどう対応するか――。大城美佐子の唄三線を何度も聞き込み、発見、挑戦を繰り返し、そうしてOKIなりに沖縄音楽を昇華したのが本作と言える。「何かの音楽と融合させたわけではない。あくまで沖縄音楽を引用したんだ」とは納得。三線とトンコリが寄り添うように美しく連奏する「固み節」、唄三線とベースの追いかけっこのようなリズムがユニークな「恋語れ」、リヴァーブやディレイでスペーシーに色付けした唄三線と太鼓が迫るダビーな「南洋浜千鳥」、一発録りで、この曲らしい“踊り”を誘う賑やかな空気を創り上げた「ランク節」など、そのアプローチはさまざまであるが、OKIが見出した新たな可能性の音の渦の中で、大城美佐子の唄声はいつも生き生きと存在している。
沖縄での作業中、OKIは幾度となく「美佐子さん、誰もやってないことをやろう」と言った。そのたびに美佐子先生は、「ふふふ」と同調するように笑うのだった。それはまるで、街一番の高嶺の花と、街一番のやんちゃ少年が秘密の計画でも練るかのような光景で、なんだか妙にドキドキした。“太陽のようなお前の笑顔”とOKIが歌う「北と南」などは、もはや美佐子先生に捧げる恋文に聞こえてくる……と言ったら大げさか。
大城美佐子は言う。「唄は心で歌うもの、唄は語り」と。本作には、2人が唄で掛け合う場面はない。けれど、2人は確かに語り合っている。それを耳にしていると、不思議と沖縄でも北海道でもない“どこか”が思い浮かぶ。遠い昔にあったどこか、それともまったく新しいどこか。懐かしいようであり新鮮でもある、その地に鳴る音は胸の奥をじわりじわりと刺激する。大城美佐子とOKI、2人が心通わせ描いたこの音の景色こそ、ほかの誰もたどり着かなかった“北と南が出会うところ”なのかもしれない。
(文/岡部徳枝)